2010年6月25日金曜日

情報機関が『地下放送』 脱北者関与 反政府勢力装う

情報機関が『地下放送』 脱北者関与 反政府勢力装う

2010年6月23日 07時08分

ソウル近郊にある「人民の声放送」の送信施設。フェンスと鉄条網に囲まれた敷地内は立ち入り禁止だ

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 韓国軍哨戒艦の沈没事件が国連安全保障理事会で協議される中、五百万人近くが死傷した朝鮮戦争(一九五〇~五三年)勃発(ぼっぱつ)から二十五日 で六十年を迎える。韓国政府は沈没事件の制裁措置として、軍事境界線付近で宣伝放送を開始。その水面下にある非軍事的戦術「心理戦」の実態が明らかになっ た。 (ソウル・城内康伸、写真も)

 六月初めの未明、ソウルで短波ラジオをある周波数に合わせると、激しい雑音とともに「朝鮮語」による 男性のアナウンスが聞こえてきた。

 「朝鮮労働者総同盟がお届けする人民の声放送を始めます。独裁政権と戦うみなさんの決死組織です」

  この日の放送の話題は哨戒艦沈没事件だ。北朝鮮の朝鮮労働党党員の夫妻が対話する形で「沈没の原因はわが軍の攻撃だ。それなのに(北朝鮮の)上層部は南 (韓国)の捏造(ねつぞう)としている」と伝えた。続いて金正日(キムジョンイル)政権を非難。放送は北朝鮮内の反政府勢力が流しているように聞こえた。

  その送信施設がソウル近郊の田園地帯にあるのを見つけた。広大な敷地に巨大なアンテナ塔が十六本。施設の外にはフェンスが張り巡らされ、監視所もある。近 くでラジオの電源を入れると、放送には雑音もなく普通に受信できた。電波は毎日十八時間、北朝鮮に向かって飛んでいる。

 「人民の声は、実 は国家情報院(韓国の情報機関=国情院)が運営している」。“怪電波”の正体を、情報当局筋が明かした。

 三十年余の短波ラジオ受信歴があ るアジア放送研究会の山下透代表は「八六年六月二十五日に開局し、かつては平壌が発信地と放送していた」と説明。

 放送にかかわった男性は 「放送原稿の執筆やアナウンスは、主に国情院が選抜した脱北者が携わっている」と証言する。別の関係者は「盧武鉉(ノムヒョン)前政権では金正日と呼び捨 てにしないよう上部から指示があった。李明博(イミョンバク)政権誕生後、激しい批判が復活した」と指摘した。

 だが、国情院は「対北放送 はしていない」と否定しており「人民の声」の運営は、極秘事項なのだ。

 こうした放送は地下放送と呼ばれ、敵対勢力や相手国内の動揺や反乱 の扇動を目的とする。放送にかぶさる雑音は、北朝鮮が住民に聞かせないようにする妨害電波だった。

(東京新聞)

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